雁字搦めの自我、自分を傷つける自分、果て思う生きる意味

苦しい。

 

この言葉は幻想である。

世界に苦しみなんて言葉はない。

あるのは、どうしようもない不条理だけだ。

 

…。

 

私たち人間は生まれながらに、強欲な生き物だ。

人のものを奪い、虐げ、犯す。

同じ人間という生物はこんなにも邪悪になれる。

 

だが、本当にこの行為は邪悪なのだろうか。

本当に人間は正しく生きる事が出来るのだろうか。

 

私はそれをずっと考えてきた。

正しさの中に幸せと居場所があると思ったからだ。

 

生まれながらにして孤独だった、褒めて欲しかったし、

尊敬してほしかった。

少しでも自分が自分でよかったと思いたかった。

 

だから周りの正しさを鵜吞みにした。

それしか自分を測れる物差しがなかったから。

それで少しだけ気が楽になった。

周りも同じような目的で集まってきた連中だったから。

 

あれから10年以上時が過ぎた。

知ったことで物差しが増えて、思いが変化してしまった。

今のワタシにはもう褒めるとか、尊敬とか、要らない。

あるのは物事の根幹へ到達し、今まで見えなかったことを見るという

知の探究欲、果てた魂の最後の寄る辺。

 

…。

 

ワタシがまだ私であったころ、立派になろうと考えていた。

だが、肝心の立派という意味が全く分からなかった。

 

イメージは成功者、人格者だった。

本屋の陳列には飽きることなく彼らの新刊が並んでいた。

私も少しでもそうなりたくて必死に読み漁った。

得たのは、なり方ではなくなった後の感想と振る舞いだけだった。

 

若い私は知らなかったから、真似をしたらなれるんだと思った。

だが結局年不相応の落ち着きと、固く考えるだけの頭が残った。

私は自信に満ちていたが、私が出来ることは読む前と比べても

何一つ変わっていなかった。

 

…。

 

私は恥じた、自分で進むべき道を決めなかったことを。

やりたくもない仕事を、高校に出た後続けた。

何も面白くなかった。なにもうれしくなかった。

怒られたくない。つらい。でもいかなきゃいけない。

苦しい、苦しい。苦しくてたまらない。

 

…。

 

私は変わった。

あの会社を辞めてやった。

なにもすることがない。でも、もう行かなくていい。

母は苦しんだ私を何も言わず見守ってくれた。

でも、何もなくなって、時間だけが過ぎていった。

 

…。

 

私は、まだ何も知らないことに気が付いた。

世界を知ってみたかった。

まだ見ぬ地へ、そして誰も自分を知らない街へ。

リゾートバイト。人生の転機、そして分かれ道。

私は名古屋でワタシになった。

 

…。

 

人生は飴細工だ、簡単に壊れてしまう。

これは私が1社目を辞めて絶望と戦った時に、つぶやいた言葉だ。

今のワタシと昔の私はもはや別人だ。

人は変わる。変わらずにいることは出来ない。

 

…。

 

あれから6年の月日がたった。

ワタシはまだ生きていて、昔よりもできることが増えた。

苦しみとは幻想だ。

だっていつかは消えて、跡すら残らないのだから。